
うちに犬が来てから、リビングにいる時間が明らかに長くなった。
前は夕飯が終わったら父親は書斎、兄は自分の部屋、私もスマホ見ながら自室に戻るっていうのが定番だったんだけど、今は違う。柴犬の「まる」が来てから、なぜかみんなリビングに残るようになって、気づいたら夜の10時とか。別に特別なことをしてるわけじゃないんだけどね。まるがソファの下に潜り込んで出てこなくなったとか、母親が買ってきた新しいおもちゃに見向きもしないとか、そういうどうでもいい話で盛り上がってる。
ペットって不思議なもので、話題の中心にいるくせに本人はまったく気にしてない。まるなんて私たちが「この前の散歩でさ」とか話してても、自分のお腹舐めるのに夢中だったりする。でもそれがいいのかもしれない。人間同士で向き合って話すと妙に緊張するけど、ペットを挟むと自然に言葉が出てくる感じがする。
兄が大学受験で家にいなかった時期、家の中がやたら静かだったのを覚えてる。母親は料理しながら独り言が増えたし、父親は新聞読む時間が長くなった。私も自分の部屋で音楽聴いてる時間ばっかりで、家族で顔を合わせるのは食事の時だけ。それも「ごちそうさま」って言ったら即解散、みたいな。
まるが来たのは去年の春先だったかな。ペットショップじゃなくて、父親の知り合いのブリーダーから譲ってもらった形で。最初の一週間は本当に大変だった。夜中に鳴くし、トイレは覚えないし、スリッパは噛むし。でもその「大変」を家族全員で共有してたんだよね。深夜2時に私と母親が交代でまるをなだめて、翌朝「昨日の夜すごかったね」って父親に報告して、兄がネットで「子犬 夜泣き対策」を調べてきて。そういう小さな連携プレーが自然に生まれてた。
ペットがいると、家族の役割分担も勝手に決まってくる。うちの場合、朝の散歩は父親、ご飯は母親、ブラッシングは私、遊び相手は兄、みたいな感じで。最初に決めたわけじゃないんだけど、いつの間にかそうなってた。で、それぞれが担当してる時間のまるの様子を報告し合うのが日課になってる。「今日の散歩、公園で柴犬仲間に会ってさ」とか「ブラッシングしてたら毛玉がすごくて」とか。
そういえば、この前家族でドライブに行った時の話なんだけど。まるを連れて海沿いのドッグランに行ったんだよね。「シーサイドパーク葉山」っていう施設で、犬専用の遊び場がある。そこでまるが初めて他の犬と本格的に遊んでるのを見て、家族全員がスマホ構えて写真撮りまくってた。帰りの車の中で、撮った写真を見せ合いながら「この瞬間が可愛い」「いやこっちの方が」って盛り上がって。普段あんまり喋らない父親まで「俺が撮ったやつが一番いい構図だろ」とか言い出して、母親に「あなたブレてるわよ」ってツッコまれてた。
ペットがいると、季節の変化にも敏感になる気がする。夏は暑さ対策で冷感マット買ったり、散歩の時間を早朝にずらしたり。冬は逆に、まるが寒がりだからヒーターの位置を調整したり、服を着せたり。そういう小さな工夫をするたびに、家族で「これどう思う?」って相談する機会が増える。
兄なんて以前は家族との会話を面倒くさがるタイプだったのに、今は自分から「まる、今日こんなことしてたよ」って話しかけてくる。多分、ペットの話題だと気楽に話せるんだろうね。直接「最近どう?」って聞かれるよりも、「まるが兄のこと好きみたいだよ」って言われる方が嬉しいのかもしれない。
休日の朝、まるが私の部屋のドアをカリカリ引っ掻く音で目が覚める。リビングに行くと、すでに母親がコーヒー淹れてて、父親が新聞広げてて、兄がまるの水を替えてる。そういう何気ない光景が、今はすごく心地いい。誰かが「おはよう」って言うと、他の人も「おはよう」って返して、まるが尻尾振りながら走り回って。
ペットを飼う前は、家族ってもっと意識的にコミュニケーション取らなきゃいけないものだと思ってた。でも実際は、共通の関心事があれば自然に会話って生まれるんだよね。それがペットだったってだけで。
まるはきっと、自分がうちの家族をこんなに変えたなんて思ってない。ただ毎日ご飯食べて、散歩して、遊んで、寝てるだけ。でもその「ただいるだけ」が、こんなに大きな影響を与えてるんだから不思議なもんだよね。
今日もまるはソファの上で丸まって寝てる。私がこれ書いてる横で、小さないびきかいてる。
組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:UETSUJI TOSHIYUKI

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