
うちに犬が来てから、朝の空気が変わった。
正確に言うと、朝6時前から誰かが私の顔を舐めてくるようになった。目覚まし時計より確実で、しかも生暖かい。ゴールデンレトリバーのハルがベッドに飛び乗ってきて、「ごはんまだ?」って顔で見つめてくる。休日だろうが関係ない。ペットを飼うってこういうことなんだって、飼い始めて三ヶ月くらいで悟った。でも不思議と嫌じゃないんだよね。むしろ、ハルに起こされない朝があったら逆に心配になると思う。
家族全員の生活リズムが、ハルを中心に回るようになった。夫は朝の散歩担当で、私が夕方。娘は学校から帰ってきたら真っ先にハルに抱きついて、宿題そっちのけで遊んでる。息子は最初「犬とか興味ない」みたいな顔してたくせに、今じゃ誰よりもハルの写真を撮ってる。スマホのカメラロールがほぼハルで埋まってるの、バレてるからね。
食事の時間が一番カオスかもしれない。
ハルのごはんは朝晩二回。最初の頃は市販のドッグフードをそのままあげてたんだけど、獣医さんに相談したら「もう少しバリエーションを持たせてもいいですよ」って言われて。それから私、ペットの栄養学みたいなのを調べ始めちゃって。鶏肉を茹でたり、野菜を細かく刻んだり。人間のごはんより手がかかってる気がする…だけど。
娘が「ママ、ハルのごはんのほうが美味しそう」って言ったときは、ちょっと複雑な気持ちになった。確かに、茹でた鶏胸肉とカボチャとブロッコリーを混ぜたやつ、彩りもいいし健康的に見える。人間用に味付けしたら普通にサラダボウルとして成立しそうだもん。
体調管理については、最初は正直なめてた。犬って勝手に元気なもんだと思ってたから。でもある日、ハルがいつもより元気がなくて、ごはんも残して。熱を測ったら少し高めで、家族会議が始まった。夜の9時過ぎだったけど、夫がすぐに夜間対応の動物病院を検索して、私が毛布を用意して、子どもたちはハルの横で心配そうに見てる。
結局、ちょっとお腹を壊してただけだったんだけど。
あの時の家族の動きの速さと一体感は、今思い出しても笑える。普段はバラバラなことしてるのに、ハルのことになると全員が同じ方向を向く。これって不思議だよね。ペット中心の生活って、こういうことなのかもしれない。
そういえば前に、友達の家に遊びに行ったときのこと。その家は猫を三匹飼ってて、リビングに「キャットタワー」っていう巨大な猫用の遊具が鎮座してた。人間のソファより場所取ってるの。で、友達が何の疑問もなく「ここ、猫たちの場所だから」って言うわけ。人間が猫の居場所を避けて生活してるんだよ。当時は「へー」くらいにしか思わなかったけど、今なら分かる。うちもハルのクッションとかおもちゃとかで、リビングの半分くらい占領されてるもん。
ペットの体調を気にするようになってから、自分の観察力が上がった気がする。ハルの耳の動き、尻尾の振り方、歩き方。ちょっとした変化に気づくようになった。この前なんて、ハルがいつもと違う場所で寝てたから「もしかして具合悪い?」って心配したら、単に日当たりがいい場所に移動しただけだった。過保護すぎるかな、とも思うけど。
夕方の散歩の時間、近所の公園でよく会う柴犬の飼い主さんと立ち話をする。お互いの犬の名前は知ってるのに、飼い主同士の名前は知らない。でもペットのごはんの話とか、最近の様子とか、そういう話で30分くらい平気で喋ってる。「最近、うちの子、ブロッコリー食べなくなっちゃって」「えー、うちは逆にブロッコリーばっかり欲しがるんですよ」みたいな。ペットを通じた人間関係って、妙に距離感が心地いい。
息子が最近、「ハルがいると家にいるのが楽しい」って言った。
思春期で無口になってきてた息子が、そんなこと言うなんて。ハルが来る前は、学校から帰ってきてもすぐ自分の部屋に行ってたのに、今はリビングでハルと遊んでる時間が増えた。ゲームしながらハルを撫でてたり、勉強してるときも足元にハルがいたり。犬って、家族の接着剤みたいなところがあるのかもね。
ペット用品を買いに行くと、つい余計なものまで買っちゃう。新しいおもちゃとか、季節限定のおやつとか。「ペットパラダイス」っていうペットショップ、品揃えが良すぎて危険。予算の二倍くらい使って帰ってくる。夫には「また買ったの?」って呆れられるけど、ハルが喜ぶ顔が見たくて。完全に親バカだって自覚はある。
生活のリズムが変わって、家族の会話が増えて、笑う回数も増えた。ペットがいるってこういうことなんだなって、今さらながら実感してる。世話は大変だし、お金もかかるし、自由な時間は減った。でもそれ以上に、毎日が濃くなった感じがする。朝起きてハルの顔を見て、夜寝る前にハルの寝顔を確認して。そんな日常が、当たり前になってる。
これからもきっと、ハルに振り回される日々が続くんだろうな。
組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:UETSUJI TOSHIYUKI


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