
うちに犬が来たのは、たしか梅雨の終わりかけだった。
最初は娘がどうしても飼いたいって言い出して、まあ正直なところ私も夫も「世話するのお前だけじゃないからな」って釘を刺したんだけど、結局みんなでペットショップに行って、ケージの中でぴょこぴょこ跳ねてる子犬を見た瞬間に家族全員が陥落した。名前はモカ。娘が付けた。コーヒー好きの夫が「俺の趣味かよ」ってツッコんでたけど、茶色い毛並みには確かにぴったりだったから文句は言えない。
で、家に連れて帰ってからが本番というか、ペットとの生活って想像してたのと全然違うなって思ったのは、たぶん三日目ぐらい。朝起きたらリビングにうんちが転がってて、夫と私が無言で見つめ合った瞬間の気まずさったらない。「誰が片付ける?」って空気が流れて、結局じゃんけんで負けた私がティッシュ片手に処理した。ペットを飼うっていうのは、こういう地味な現実の積み重ねなんだよね。
食事の管理も思ったより大変で。最初はペットショップで勧められたドッグフードをそのままあげてたんだけど、モカがあんまり食べなくて。ネットで調べたら「ふやかすといい」とか「トッピングを工夫する」とか色々出てくるわけ。で、夫が仕事から帰ってきて「今日モカ、ご飯食べた?」って聞くのが日課になって、娘は娘で学校から帰るなり「モカのおやつあげていい?」って聞いてくる。家族の会話の中心がいつの間にかモカになってた。
体調管理については、正直最初は何が普通なのかすらわからなくて焦った。うんちの固さとか色とか、そんなこと気にしたことなかったし。ある日モカがやたら水を飲むなって思って、これって病気のサインじゃないかって夜中にスマホで検索しまくったこともある。結局ただ暑かっただけなんだけど、そういう小さな変化にみんなが敏感になっていくんだよね。娘なんか「今日モカの耳が熱い気がする」とか言い出して、体温計で測ろうとしてたし。
そういえば、去年の夏に家族で旅行に行こうって話になったとき、真っ先に出た話題が「モカどうする?」だった。ペットホテルに預けるか、誰か一人残るか、それともペット可の宿を探すか。結局ペット可のコテージみたいなところを予約して、モカも一緒に連れて行ったんだけど、車の中でずっと鳴いてて大変だった。でもあの旅行、モカが初めて海を見た瞬間に波に驚いて後ずさりしたのとか、今でも家族で笑い話になってる。
散歩の当番制も最初は決めてたんだけど、いつの間にか崩壊した。朝は夫が出勤前に行って、夕方は娘が学校から帰ってきて行って、休日は私が買い物ついでに連れて行く。当番っていうより、それぞれが自分のタイミングでモカと過ごす時間を作ってる感じ。近所のドッグランで知り合った人が「ペットって家族の潤滑油みたいなもんだよね」って言ってて、まさにそれだなって思った。
夜、リビングでテレビ見てるときにモカが膝の上に乗ってくると、家族の誰かが必ず「ずるい」って言う。で、順番に膝の上に乗せてあげるんだけど、モカは私の膝が一番好きらしくて、すぐ戻ってくる。娘が「お母さんばっかり!」って拗ねるのも含めて、なんかこういう時間が好きなんだよね。
ペットの医療費も馬鹿にならなくて、予防接種とかフィラリアの薬とか、最初は「こんなにかかるの?」って驚いた。でも動物病院の先生が「この子は家族の一員ですから」って言ったとき、ああそうだなって素直に思えた。お金の話じゃないんだよね、結局。
最近モカが少し太ってきて、獣医さんに「食事の量を見直してください」って言われた。家族会議の結果、おやつをあげすぎてたのが原因だって判明して、みんなで反省した。でも娘が「モカが可愛くておねだりされると断れない」って言うから、気持ちはわかるけどさ…って感じ。
ペットとの生活って、世話が大変とか責任が重いとか、そういう話をよく聞くけど、実際やってみると確かにそうなんだけど、それ以上に何かが増える感じがする。家族の会話が増えて、笑うことが増えて、誰かを気にかける習慣が自然とできていく。
モカがうちに来てもうすぐ二年。最近は朝起きると、モカが私の枕元で寝てることが多い。いつの間にか部屋に入ってきてるんだよね。夫は「俺の方が先に起きるのに、お前のとこ行くんだな」って毎朝ぼやいてるけど。
組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:UETSUJI TOSHIYUKI

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