
朝7時に猫が吐いた。いつもと違う音で目が覚めた。
うちのミケ(名前の由来は見たまんま)が寝室の隅で小さくなっていて、床には黄色っぽい液体。慌ててティッシュで拭きながら、頭の中は真っ白。こういう時って何から考えればいいんだっけ。スマホで「猫 嘔吐」って検索したけど、出てくる情報が多すぎて余計に混乱する。毛玉なのか、それとも何か深刻な病気なのか。判断がつかない。
動物病院って、人間の病院みたいに「ちょっと様子見」が許されない気がして怖い。だって彼らは喋れないから。「お腹痛い」とか「昨日から調子悪かった」とか教えてくれない。飼い主が気づいた時にはもう手遅れ、みたいな話をネットで読んだことがあって、それがずっと頭に残ってる。
結局その日は仕事を午前休にして、9時の開院と同時に近所の「わんにゃんクリニック」に駆け込んだ。待合室には犬を抱いたおばあちゃんと、大きなケージに入った白い猫。消毒液の匂いが鼻につく。ミケはキャリーの中で小さく鳴いてる。診察室に呼ばれるまでの15分が、ものすごく長かった。
先生は意外と淡々としていて、「よくあることですよ」って言ってくれた。触診して、体温測って、血液検査のために採血。ミケは暴れたけど、看護師さんが慣れた手つきで押さえてる。結果が出るまでまた待合室。スマホをいじりながら、そういえば去年の健康診断サボったなって思い出した。人間の自分の健康診断も行ってないのに、猫の心配してる場合じゃないかもしれない…だけど。
診断は「軽い胃腸炎」。たぶん何か変なもの食べたんでしょうって。ホッとしたけど、会計で1万2千円って言われて少し青ざめた。検査代って高い。薬を3日分もらって帰宅。その日の午後、ミケは普通にカリカリ食べてた。何事もなかったみたいに。
ペット保険のパンフレットは、実は半年前から冷蔵庫の横に貼ってある。「いつか入ろう」と思いながら先延ばしにしてた。月々3千円くらいって書いてあって、高いような安いような。でも今回みたいなことが月に2回あったら、保険入ってた方が安いんだよな。人間の保険だって入ってるんだから、家族同然のペットに入らない理由はない。
ただ、保険って結局「使わないのが一番いい」わけで。使わないで済むってことは、元気でいてくれるってことだから。矛盾してる。保険料払い続けて一度も使わなかったら損した気分になるけど、使う状況になったらそれはそれで辛い。
友達のユウコは犬を3匹飼ってて、全員保険に入れてるらしい。「絶対入った方がいい」って力説されたことがある。彼女の家のチワワが誤飲で手術した時、30万かかったって。保険で7割戻ってきたから助かったって言ってた。30万。想像しただけで胃が痛い。
病気になってから慌てるんじゃなくて、元気なうちに備えておく。頭では分かってる。でも人間って、目の前で何か起きないと動かない生き物なんだよな。私もあの朝、ミケが吐かなかったら、たぶん今日もパンフレット眺めて「そのうちね」って言ってた。
冷蔵庫のパンフレット、明日ちゃんと読もう。いや、今夜読む。たぶん。ミケは今、窓際で日向ぼっこしながら毛づくろいしてる。元気そうで良かった。次に何かあった時、また慌てふためく自分が目に浮かぶけど。
組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:UETSUJI TOSHIYUKI


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