ペットが教えてくれた、子供の笑い方

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うちに犬が来たのは、娘が3歳になる直前の春だった。

ゴールデンレトリバーとラブラドールのミックスで、保護施設から引き取ったんだけど、最初の一週間は本当に大変で。娘は興奮しすぎて夜中に何度も起きるし、犬のほうは新しい環境に慣れなくて、リビングの隅でずっと震えてた。私も夫も寝不足で、これ本当に正解だったのかなって何度も思った。ペットショップで見かけた小さなケージに入った子犬たちは可愛かったけど、実際に家族として迎え入れるってこんなに覚悟がいることだったんだって、そのとき初めて実感したというか。

でも変化は突然やってきた。ある朝、いつものように娘が犬に近づいていって、今度は無理に触ろうとせず、ただ隣に座って絵本を読み始めたんだよね。声に出して。犬の名前はマロンっていうんだけど、娘は「マロンも聞いてね」って言いながら、ページをめくるたびにちらっと犬の顔を見るの。最初は警戒してたマロンが、少しずつ娘のほうに体を向けて、最終的には娘の膝に顎を乗せた。

あの瞬間の娘の顔を、私は一生忘れないと思う。

それからというもの、二人の距離は急速に縮まっていった。娘は幼稚園から帰ってくると真っ先にマロンを探すようになったし、マロンも玄関で娘の帰りを待つようになった。ふれあいって言葉だと少し硬い気がするけど、あの二人の関係を表現する他の言葉が見つからない。触れ合うだけじゃなくて、何かもっと深いところで通じ合ってるような感じ…だけど。

そういえば最近、娘の友達が遊びに来たときのこと。その子は犬が苦手らしくて、マロンを見た途端に固まってしまった。娘はすぐに気づいて、「大丈夫だよ、マロンは優しいから」って言いながら、自分がマロンの頭を撫でて見せたの。「ほら、こうやってゆっくり手を出すんだよ。いきなり触らないで、まず匂いを嗅がせてあげるの」って。3歳のときは興奮して追いかけ回してた娘が、今では他の子に犬との接し方を教えてる。成長ってこういうことなんだなって思った。

犬を飼う前は、正直言って衛生面とか安全面とか、心配なことばかりだった。子供が小さいうちはペットは待ったほうがいいって意見も周りから聞いたし。特に義母が「アレルギーが出たらどうするの」って何度も言ってきて、それはそれで気になってたんだけど。幸い娘には何も出なかったけど、もし出てたらどうしてたんだろうって今でも時々考える。

夏の午後、縁側でマロンが寝そべってて、娘がその背中にもたれながら宿題をしてる光景を見ることがある。マロンの呼吸に合わせて娘の体も上下に揺れて、鉛筆を持つ手だけが動いてる。時々娘が「マロン、これ何て読むの?」って聞くと、マロンは耳をぴくっと動かす。答えられるわけないのに、娘は「やっぱりわかんないか」って笑う。

近所のペットサロン「わんわんパラダイス」に一緒にトリミングに行ったときも面白かった。待合室で他の犬たちを見ながら、娘が「あの子は緊張してるね」「あの子は嬉しそう」ってずっと解説してくれるの。飼い主さんたちも微笑みながら聞いてて、「よく見てるわねえ」って褒められた。犬の表情を読み取れるようになったのは、毎日マロンと過ごしてるからだと思う。言葉が通じない相手の気持ちを想像する力って、人間関係でも大切だよね。

雨の日の散歩は大変だけど、娘は喜んで付いてくる。長靴を履いて、レインコートを着て、マロンのリードを持ちたがる。まだ力が足りなくて、マロンが引っ張ると私が慌てて支えるんだけど、娘は「私が守るから」って言う。誰を? マロンを? それとも私を?

ペットとの生活って、予測不可能なことの連続で。計画通りにいかないし、想定外のトラブルもある。でもそういう不完全さの中で、子供は何かを学んでいくんだと思う。責任とか、思いやりとか、そういう言葉で括れない何か。

最近、娘が寝る前にマロンに「おやすみ」を言うようになった。マロンの耳に口を近づけて、小さな声で何か囁いてる。内容は聞こえないけど、聞かなくていい気がする。

子供とペットのふれあいって、結局のところ大人が用意できるものじゃないのかもしれない。

組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:UETSUJI TOSHIYUKI

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