ペットと暮らす家が、いつの間にか全員の生活リズムを変えていた話

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うちに犬が来たのは、確か梅雨の終わりかけだった。

最初の一週間は正直、誰もが戸惑ってばかりだったと思う。父親は仕事から帰ってくるなり玄関で立ち止まって「あ、いたんだ」って小声で言うし、母はキッチンで野菜を刻みながら「この子、キャベツ食べるのかしら」とか独り言を繰り返してた。私も私で、朝起きたときにリビングから聞こえる物音に驚いて、ああそうだったって思い出す日々。弟なんて最初の三日間、犬を見るたびに緊張した顔で固まってたから、むしろ犬のほうが心配そうにこっちを見てた。

でも不思議なもので、一ヶ月もすると家族全員の行動パターンが少しずつ変わり始めた。

朝、誰が最初に起きるかで揉めるようになったのは想定外だった。以前は休日なんて昼近くまで誰も起きてこなかったのに、今は七時には誰かしらがリビングに降りてくる。犬の散歩に行きたいからというより、あの期待に満ちた目で見つめられると放っておけない、みたいな感じ。父親が「俺が行く」って言い出したときは家族全員が二度見したけど。

食事の時間も変わった。以前はバラバラに食べることが多かったうちが、今は夕方六時にはほぼ全員が揃ってる。ペット用のご飯を準備する母の横で、弟が「今日は何グラム?」とか聞いてて、私は皿を並べながら「昨日より少し減らしたほうがいいんじゃない」とか口を出す。獣医さんに「少し太り気味ですね」って言われてから、家族会議が三回は開かれた。真面目か。

そういえば先週、友達に「最近LINEの返信遅くない?」って言われて、スマホの使用時間を確認したら確かに減ってた。代わりに増えてたのが、リビングで過ごす時間。別に特別なことをしてるわけじゃないんだけど、ソファに座ってぼんやりテレビを見てると、膝の上に頭を乗せてくる重みがあって、それが妙に落ち着く。父親も仕事の資料を広げながら、片手で背中を撫でてたりする。

体調管理については、正直なところ最初は全然わからなかった。「なんか元気ないかも」って母が言い出したとき、私は「いつもと同じに見えるけど」って返したんだけど、よく観察してみると確かに耳の動きが少ない気がする。で、家族全員で「ペットの健康チェック」みたいなサイトを見始めて、鼻の湿り具合がどうとか、目ヤニの色がどうとか、そんな話で一時間が過ぎた。結局その日は様子見で、翌日には普通に戻ってたんだけど。

弟が最近、動物の栄養学みたいな本を図書館で借りてきたのには驚いた。中学生が。ドッグフードのパッケージに書いてある成分表を見ながら「このタンパク質の割合って適正なのかな」とか言い出して、母が「あんた自分の食事にはそんなに興味ないくせに」ってツッコんでた。でも嬉しそうだった、母も。

休日の過ごし方も変わった。以前は各自が好きなことをして過ごしてたのに、今は「ちょっと公園行かない?」が合言葉になってる。近所のドッグランに行くようになってから、父親が妙に他の飼い主さんと仲良くなって、「〇〇さんちのゴールデンがね」とか話し始めるのが面白い。社交的だったんだ、この人。

夜、寝る前の時間も変化した。以前は各自が自分の部屋にこもってたのに、今はリビングで「今日の様子どうだった?」みたいな報告会が自然発生する。「午後三時くらいに水を飲んでた」とか「夕方の散歩で隣の猫と目が合って固まってた」とか、本当にどうでもいい情報を共有し合ってる。

ペット用品を買いに行くのも、いつの間にか家族のイベントになった。「ペットプラザ」っていう大型店に行くと、全員が違う売り場に散らばって、三十分後に集合場所で「これどう?」って見せ合う。おやつ担当、おもちゃ担当、日用品担当みたいな役割分担ができてて、誰が決めたわけでもないのに。

思えば、生活が変わったというより、家族の距離が変わったのかもしれない。

別に劇的な何かがあったわけじゃない。ただ、共通の話題ができて、共通の心配事ができて、共通の楽しみができた。それだけのこと…だけど。

組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:UETSUJI TOSHIYUKI

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