私たちの家に小さな命が加わったのは、息子が4歳になる直前のことでした。保護猫カフェで出会った茶トラの子猫は、最初は警戒した様子でしたが、息子の優しい手の温もりに少しずつ心を開いていきました。「モカ」と名付けられたその子猫は、まるで最初から私たちの家族の一員だったかのように自然に溶け込んでいきました。
息子は毎朝、「モカ、おはよう!」と元気な声で挨拶することを日課にしていました。最初は戸惑っていたモカも、次第にその声に反応して尻尾を立てて近づいてくるようになりました。朝食の時間には、息子の椅子の横でじっと待っているモカの姿が微笑ましく、家族の団らんにさらなる温かみを加えてくれました。
特に印象深かったのは、息子が幼稚園から帰ってきた後の時間です。園での出来事をモカに話しかける息子の姿は、まるで親友との会話のようでした。「今日は折り紙で鶴を作ったんだよ」「お友達とブランコで遊んだの、楽しかったな」と、その日あった出来事を一つ一つ丁寧に報告します。モカは時にはゴロゴロと喉を鳴らし、時には大きな瞳でじっと息子を見つめ、その話に耳を傾けているかのようでした。
息子の責任感も、モカとの生活を通じて着実に育っていきました。「モカのごはんの時間だよ」と、自分から時計を確認して食事の準備をするようになり、水も定期的に取り替えることを覚えました。トイレの掃除も、最初は嫌がっていましたが、「モカが気持ちよく過ごせるように」という思いから、進んで手伝うようになっていきました。
モカとのふれあいは、息子の感情表現も豊かにしていきました。モカが甘えてきたときの嬉しそうな表情、具合が悪そうなときの心配そうな様子、遊びに夢中になっているときの楽しそうな笑顔。そのどれもが、息子の感情の機微を表現する大切な機会となっていました。
特に印象的だったのは、息子が初めて自分でモカのブラッシングをした日のことです。「痛くないようにゆっくりとね」と教えると、普段は少々乱暴な息子が、驚くほど慎重に優しくブラシを動かしていました。その真剣な表情に、生き物を大切に扱うことの意味を、体験を通じて学んでいる様子が見て取れました。
時には、モカの予想外の行動に戸惑うこともありました。大切なおもちゃを噛まれたときや、お気に入りの本に爪を立てられたときなど、息子は悔しい思いをすることもありました。しかし、そんなときでも「モカはわざとじゃないんだよね」と理解を示し、相手の立場に立って考えることを自然と学んでいきました。
季節の変化とともに、モカと息子の関係も深まっていきました。春には窓辺で日向ぼっこをしながら、外の鳥を一緒に観察し、夏には扇風機の風に当たりながら昼寝を共にし、秋には落ち葉で遊ぶモカを見守り、冬にはこたつの中で温まりながら絵本を読む、そんな何気ない日常の積み重ねが、かけがえのない思い出となっていきました。
息子の友達が遊びに来たときも、モカは特別な存在でした。最初は怖がっていた友達も、息子が「優しく触るんだよ」と教えると、次第にモカと仲良くなっていきました。ペットとの接し方を教えることで、息子自身も相手を思いやる気持ちを育んでいったのです。
就学前の面接で、先生から「好きなものは何?」と聞かれた息子は、迷うことなく「モカ!」と答えました。そして「大きくなったら、モカみたいな優しい気持ちを持てる人になりたい」と続けました。その言葉に、ペットとの生活が息子の心の成長にもたらした大きな影響を感じずにはいられませんでした。
学校生活が始まってからも、モカは息子の大切な存在であり続けています。宿題をするときも、モカが横でくつろぐ姿に励まされ、時には気分転換にモカと遊んでから勉強に戻るという自分なりのペースを見つけていました。
今では、息子は「将来は動物のお医者さんになりたい」と夢を語るようになりました。モカとの生活を通じて、生き物への愛情と責任感を育み、その経験が将来の目標へとつながっていったのです。
ペットとの生活は、子供の成長に計り知れない影響を与えます。思いやりの心、責任感、生命の尊さ、そして無条件の愛情。これらすべてを、モカは日々の何気ない瞬間の中で、息子に教えてくれています。
そして今も、リビングの窓際では、宿題に取り組む息子の傍らで、モカがのんびりと毛づくろいをしています。時折交わされる息子とモカの視線には、言葉では表現できない深い絆が感じられます。この特別な関係が、これからも息子の成長を見守り続けていくことでしょう。
役職名:UETSUJI TOSHIYUKI
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