ペットが教えてくれた、大切なこと――病気の夜に気づいた「備え」の話

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十月の朝は、思いのほか早く冷える。窓の外でまだ薄暗い空が白みはじめた頃、愛猫のムギが布団の端でいつもと違う丸まり方をしていた。呼んでも顔を上げない。ふだんなら朝ごはんの時間には台所まで先回りして待っているのに、その日はぴくりとも動かなかった。

ペットとの生活は、毎日が小さな幸福の積み重ねだ。朝の光の中で伸びをするその後ろ姿、夜に膝の上で眠るときの体温、かすかに香るシャンプーの残り香。そういうものがあまりにも当たり前になっていると、「いつもと違う」というサインを見落としてしまいそうになる。

ムギの体をそっと触ると、いつもより熱い気がした。正確には「気がした」程度の話で、体温計を当てたわけでもない。それでも、長く一緒に暮らしてきた感覚というのは、意外と正直なものだ。すぐにペット病院に電話をかけた。

かかりつけの「ハナモリ動物クリニック」は、自宅から自転車で十分ほどの場所にある。院長の先生は無口だが、診察の手つきがとても丁寧で、ムギもここだけは嫌がらない。受付で名前を告げると、「少々お待ちください」と言われ、プラスチックのベンチに座った。診察室の外から、どこかの犬のかすかな鳴き声が聞こえていた。

診断の結果は、軽度の胃炎だった。大事には至らなかったが、先生から「もう少し早く連れてきていれば」という言葉をもらった。その一言が、帰り道ずっと頭の中で繰り返された。

ペットには人間の健康保険のような制度がないため、病院に連れて行くと診療費は全額自己負担となる。
それを改めて実感したのも、この日だった。会計のとき、思っていたよりも大きな金額が画面に表示されて、内心「うっ」と声が出そうになった。顔には出さなかったけれど。

犬や猫の入院・手術費用は数十万円に達することもあり、ペット保険に加入しているかどうかで経済的負担が大きく変わる。
今回は通院だけで済んだが、もし入院が必要になっていたら、と考えると背筋が少し冷えた。ペット保険のことは以前から気になっていたのに、「まだ若いから」「元気だから」と後回しにしていた自分が恥ずかしかった。

ペット保険は加入後30日〜60日間の「待機期間」があり、この期間中に発症した病気は補償されない。健康な子犬・子猫のうちに早期加入することが重要だ。
つまり、元気なうちに動いておかなければ意味がない。頭ではわかっていたはずなのに、人間というのは不思議と、痛い目を見てからでないと動けないものらしい。

帰宅してムギをキャリーバッグから出すと、薬が効いてきたのか、少しだけ食欲が戻っていた。小皿にウェットフードを盛ると、ゆっくりと近づいてきて、鼻先でにおいを確かめてから食べ始めた。その横顔を見ながら、子どもの頃に飼っていた犬のことを思い出した。あの頃は親に任せきりで、病気のときも「なんかいつもと違うな」と思いながら何もしなかった。あの無力感を、大人になってまた繰り返したくない。

ペットとの生活を守るということは、日々の愛情だけでは足りない。いざというとき慌てないための準備、かかりつけのペット病院との関係、そしてペット保険という選択肢。どれも地味で、楽しくはないかもしれないけれど、それがムギと長く一緒にいるための現実的な方法だと、十月の朝に教えてもらった気がする。

ムギはその夜、いつもの場所、わたしの膝の少し上あたりに丸まって眠った。体温が伝わってくる。少し重い。それがとても、ありがたかった。

組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:UETSUJI TOSHIYUKI

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