
五月の朝は、思ったよりも早く明ける。
カーテンの隙間からやわらかな光が差し込んで、フローリングの上に細長い白い帯をつくる。その光の中に、うちの犬――ミニチュアシュナウザーの「むぎ」が、ちょうどうとうとしながら丸まっていた。前足をぴくぴくと動かして、夢でも見ているのだろうか。子どもたちがまだ眠っている静かな時間に、私だけがそれを見ている。そういう朝が、今はいちばん好きかもしれない。
ペットとの生活を始めて、もう四年が経つ。正直に言うと、最初はこんなに変わるとは思っていなかった。家族の時間の使い方が変わり、会話の内容が変わり、週末の行き先まで変わった。むぎが来てから、わが家の重心がすこしだけ低くなった気がする。もっと地面に近いところで、みんなが笑うようになった。
ペットを家族の一員と考える「ペットの家族化」が進む中、ペットフードに求められる価値も大きく変化している。
という話を、先日読んだ。まさにそうだと思う。むぎのペットの食事について考えるとき、私たち夫婦は真剣になる。
2026年のペットフードは「ヒューマングレード」「機能性フード・サプリ」が主要トレンドとなり、健康維持や病気の予防まで問われる時代になった。
そんな情報をスマートフォンで調べながら、夫が「これ、俺たちより栄養バランス考えてるな」とつぶやいた。……否定できなかった。
獣医師への調査では、愛犬の健康管理において特に気を遣うべきこととして「食事管理」が最多で、次いで「室温・体温調節」「適度な運動習慣」が挙げられている。
それを知ってから、わが家では食事の時間がより丁寧になった。ドライフードに少量の温かいスープをかけてやると、むぎは鼻先をくっつけてにおいを確かめてから、ゆっくり食べ始める。湯気がほんのり上がって、キッチンにやさしい獣臭が漂う。悪くない朝の香りだと思っている。
ペットの体調管理については、
AIがペットの状態を読み取り、体調の変化をチェックしてくれるアプリも登場しており、家族みんなで記録を確認できる機能を持つものもある。
うちでも「ペットノートPlus」というアプリを使い始めた。体重、食事量、散歩の時間。夫が記録して、私が確認して、小学三年生の娘がたまにこっそり「むぎ、今日げんきだった」とメモを追加している。それを見つけるたびに、なんとも言えない気持ちになる。
思い返せば、私が子どもの頃に飼っていた犬は、体調が悪くなるまでほとんど気づいてもらえなかった。食欲が落ちても「そのうち食べる」と言われ、水を飲む量が増えても誰も気にしなかった。あの頃とは、ずいぶん違う時代になった。
体調の変化――毛並み・便の状態・食いつき――はフードが合っているかのサインであり、定期的にチェックしながらフードを見直す習慣が大切だ。
そういうことを、今の私たちは知っている。
週末になると、家族全員でむぎの散歩に出かける。近所の「葉山台緑地公園」を抜けて、川沿いの遊歩道を歩くのがお気に入りのコースだ。五月の朝、草の上に露がまだ残っている時間帯に歩くと、むぎはあちこちに鼻をつけて、見えない地図を読んでいるみたいに動く。息子がリードを持ち、娘が横を走り、夫と私が少し後ろをゆっくり歩く。そのとき夫がふと私にコーヒーの入った水筒を渡してくれる。温かくて、少し甘い。それだけで、なんだか十分な気がしてしまう。
ペットとの生活は、ときに不便だ。旅行の計画は複雑になるし、急な外出も気を遣う。むぎが体調を崩した夜は眠れなかった。それでも、と思う。それでも、この暮らしには何か確かなものがある。
ペットのメンタルヘルスや心理ケアへの関心が高まり、ペットの心のケアがより良い生活の一環として認識されつつある。
でも正直なところ、ケアしているのはむぎだけではないと思う。むぎがいることで、私たちもどこかで整えられている。
夕方、リビングに家族が集まる時間。むぎはいつも誰かの足元にいる。娘がソファでうとうとしはじめると、むぎはそっと隣に移動して、体をくっつけて丸くなる。その重さと温もりを、娘は眠りながら感じているだろうか。
ペットとの生活は、ドラマチックではない。でも、毎日のそういう小さな場面が積み重なって、家族の記憶になっていく。むぎが来てから、わが家の写真が増えた。笑っている顔が増えた。それで十分だと、五月の朝の光の中で、静かに思う。
組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:UETSUJI TOSHIYUKI

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