
朝7時、いつもの音がしなかった。
リビングに行くと、うちの猫のマロが変な姿勢で丸まっていて、床には吐いたあとがあった。心臓がドクンとした。マロは普段、朝ごはんの時間になると私の足元をぐるぐる回りながら鳴くのに、その日は動かなかった。触ると体が熱い気がして、でも冷たい気もして、よくわからなくて。
動物病院の診察時間を調べながら、スマホを持つ手が震えていたのを覚えている。一番近い病院は9時から。あと2時間もある。救急対応している病院を探したけど、車で40分もかかる場所だった。タクシーを呼ぶべきか、それとも待つべきか。判断ができなくて、ただマロの横に座り込んでいた。結局、かかりつけの病院が開くまで待つことにしたんだけど、あの2時間がどれだけ長かったか。
ペットが具合悪そうにしている時って、人間の時とは全然違う怖さがあるんだよね。言葉で「ここが痛い」とか「気持ち悪い」とか教えてくれないから。私たちは表情とか仕草から推測するしかない。マロの場合、普段はピンと立っている耳が後ろに倒れていて、目を細めていた。呼吸も少し早い気がした。でもそれが「すぐ病院に行くべきレベル」なのか「様子見でいいレベル」なのか、飼い主歴3年の私には全く判断がつかなかった。
そういえば去年の夏、友達の犬が夜中に突然ぐったりして、救急病院に駆け込んだことがあったっけ。結果的には熱中症の初期症状だったらしいんだけど、その友達は「あの時すぐ連れて行って本当によかった。判断を誤っていたらと思うと…」って言っていた。
9時きっかりに病院の前に着いた。まだシャッターが半分しか開いていなかったけど、キャリーケースに入れたマロを抱えて中に入った。受付の人が「どうされましたか」って聞いてきて、私は朝の状況を説明した。吐いたこと、元気がないこと、体が熱い気がすること。話しながら、自分の観察が足りなかったんじゃないかって不安になった。もっと細かく見ておくべきだったんじゃないかって。
診察室に入ると、先生はマロの体温を測って、お腹を触って、口の中を見て。私が気づかなかったことをいくつも確認していた。「昨日の様子は?」「ごはんは食べた?」「水は飲んでた?」矢継ぎ早に質問されて、答えながら、もっとちゃんと見ておけばよかったって後悔した。昨日の夜、マロがいつもより静かだったのは覚えている。でもそれが体調不良のサインだったなんて、その時は思いもしなかった。
検査の結果、胃腸炎だった。何か変なものを食べたか、ストレスか、原因ははっきりしないけど、点滴と薬で治療できるレベルだって言われた。ほっとしたと同時に、治療費の話になった。診察料、検査代、点滴、薬…合計で2万円近くかかった。正直、想定していた金額の倍以上だった。
ペット保険に入っていればよかったって、その時初めて本気で思った。以前、保険会社のパンフレットを見たことはあったんだけど、「うちの子は健康だし、まだ若いし」って加入を先延ばしにしていた。月々の保険料が勿体ないような気がしていたんだよね。でも実際に病院で高額な請求書を受け取ると、考えが変わる。これが手術とか入院とかになったら、いくらかかるんだろうって。
帰り道、少し元気を取り戻したマロがキャリーの中で小さく鳴いた。その声を聞いて、涙が出そうになった。
あれから私は、夜寝る前にマロの様子をチェックするようになった。ごはんをどれくらい食べたか、水をちゃんと飲んでいるか、トイレの回数は普段と変わらないか。スマホのメモアプリに記録することもある。神経質すぎるかもしれないけど、あの朝の無力感をもう一度味わいたくないから。
ペット保険についても、何社か資料を取り寄せて比較した。補償内容とか、月々の保険料とか、加入できる年齢とか。「ペットメディカルプラン」っていう保険が評判良さそうだったから、今は加入を前向きに検討している。まだ決めてないけど。
結局、ペットを飼うって、こういう不安と常に隣り合わせなんだと思う。彼らは自分の不調を言葉で伝えられない。だから私たちが気づいてあげるしかない。でも完璧に気づけるわけじゃない。見逃すこともある。判断を誤ることもある。
今もマロは私の膝の上で丸くなって寝ている。規則正しい呼吸音が聞こえる。この静けさが、ずっと続けばいいのに…なんて思うけど、それは無理な話で。
組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:UETSUJI TOSHIYUKI

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