
五月の連休が終わりかけた夕方のことだった。窓の外にはまだ柔らかい夕焼けが残っていて、部屋の中にはエアコンが入る前の、少し生ぬるい春の空気が漂っていた。いつもならソファの端でうとうとしているはずのムギ——うちのミニチュアダックスフント——が、その日だけは丸まったまま動かなかった。
ご飯に顔を近づけても、鼻先でそっと押しのけるだけ。食いしん坊で、いつもフードの袋を開ける音がすれば台所まで全力で走ってくる子が、だ。「あれ、おかしいな」と思いながらも、最初は「疲れてるのかな」と軽く流してしまった。ペットとの生活を長く続けていると、こういう小さなサインを見落としてしまうことがある。いや、見落としたくなくても、どこかで「きっと大丈夫」と思いたい自分がいる。
翌朝、ムギの様子は変わらなかった。水も飲まず、背中を触ると微かに熱い。体温計を持ち出して脇に挟もうとしたら、ムギが「なんですかこれは」とでも言いたそうな顔でこちらをじっと見つめてきた。——そう、犬の体温は脇ではなく直腸で測るものだと、ペット病院の先生にあとで教わった。あの瞬間、わたしは少しだけ恥ずかしかった(心の中で小さくツッコんだ)。
かかりつけのペット病院、「グリーンパウ動物クリニック」に電話をかけたのは、朝9時を少し過ぎた頃だった。受付の方の声は穏やかで、「症状をできるだけ詳しく教えてください」と言われた。食欲不振、元気のなさ、背中の熱感。電話口でひとつひとつ伝えながら、自分がどれだけムギのことを観察できていたか、改めて確かめるような時間だった。
診察の結果は、軽度の胃腸炎だった。深刻ではないと聞いて、肩の力が一気に抜けた。処方された整腸剤と流動食を受け取りながら、先生が「早めに来てくれてよかったです」と言ってくれた。ペット病院というのは、何かあってから慌てて駆け込む場所だと思っていたけれど、実はそうじゃない。日頃から顔を知ってもらい、ムギの平常時の状態を把握してもらっておくことが、いざというときの診断の精度を上げる。それを今回、身をもって知った。
飼い主がペットの罹患しやすい病気やその症状をしっかり理解しておけば、万が一病気に罹患してしまっても早期発見によって重症化を防ぐことができる場合があります。
この言葉が、今のわたしには深く刺さる。
そして、この出来事を機にあらためて見直したのがペット保険だった。ムギを迎えた当初、保険の話を調べたことはあった。でも「まだ若いし」「健康だし」と後回しにしていた。今回の治療費はそこまで高額ではなかったけれど、もし入院や手術が必要な状態だったら——そう考えたとき、背筋が少し冷えた。
ペット保険への加入を検討する上で、ポイントとなるのがペットの「健康状態」と「加入対象年齢」です。ペットが一度病気になってしまうと「ペット保険に加入ができない」「加入ができても条件付き」となってしまう可能性があるため、ペットが健康なうちにペット保険の加入を検討すると良いでしょう。
どの病気もすべてダメということではなく、指定された病気に罹患していたら加入できないケースや持病があっても条件付きで加入できるケースがあります。
だから、まず一社に断られても諦めずに複数の保険会社を比較することが大切だと知った。ペットとの生活を長く豊かに続けるために、保険は「もしも」のための安心の土台になる。
ムギはいま、ソファの定位置に戻っている。夕方の光が斜めに差し込む窓際で、また目を細めてうとうとしている。その寝顔のそばに、わたしはそっとブランケットをかけてやった。温かくて、少し獣の匂いがする、いつもの感触。ペットとの生活には、こんな何でもない瞬間が無数にある。だからこそ、その日常を守るための準備を、わたしは今日から始めようと思っている。
組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:UETSUJI TOSHIYUKI

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