ペットと行く、長距離ドライブの旅──助手席のムギと、秋の道

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朝の六時半。カーテンの隙間からやわらかい光が差し込んでくる時間に、わたしはすでにトランクへ荷物を積み込んでいた。リュックひとつ、クレート、水筒、そして「パウズトレイル」というアウトドアブランドのドッグシートカバー。助手席には、ミックス犬のムギが鼻をひくひくさせながら座っていた──正確には、座ろうとして滑り、一瞬だけ情けない顔をした。クレートに入れるつもりだったのに、目が合ったら諦めてしまった。飼い主として失格かもしれない。でも、あの目には勝てない。

2026年、ペット同伴旅行の予約は前年比260%増という数字が出ている。
その波に乗っているつもりはなかったけれど、気づけばわたしもその一人になっていた。ペットとの生活が日常になってくると、旅もまた「ふたりで行くもの」になっていく。それは自然なことだと思う。

高速に乗ってしばらくすると、ムギは前足をダッシュボードに乗せて外を眺め始めた。耳が風でぱたぱたと揺れている。窓を少しだけ開けると、九月下旬の朝の空気が車内に入ってきた。草と土と、かすかに金木犀の香りが混じっている。秋だ、とようやく気がついた。夏の名残りが消えきらないまま、季節はもうそこまで来ていた。

車でのペット旅行は自由度が高い反面、長距離移動では1〜2時間ごとにサービスエリアで休憩・トイレ・水分補給をとることが大切だ。
これはペットとの生活を始めてから、わたしが何度も調べ直した基本のひとつ。頭ではわかっていても、「もう少し走れば次のSAが大きいから」と先延ばしにしてしまうのが人間の悪いところで、ムギはそんな事情など知らず、後部座席のタオルをくるくると丸めて眠り始めていた。

最初の休憩は、出発から一時間四十分後。
休憩中はトイレ、水分補給、軽く体を動かす時間を作ることが大切で、10〜15分程度でも十分に効果がある。
ムギはSAの芝生エリアに降り立つなり、鼻を地面に押しつけて歩き始めた。においの情報を読んでいるのだろう。人間がスマートフォンをスクロールするのと、たぶん似たような行為だ。

犬の快適な車内温度の目安は21〜25℃で、クレートやキャリーの中は熱がこもりやすいため、愛犬の様子をこまめに確認することが重要だ。
九月とはいえ、日差しが強い日には油断できない。わたしはシートカバーの下に手を入れて温度を確認する癖がついた。ムギが暑そうにしていないか、呼吸が速くなっていないか。ペットとの生活は、こういう小さな確認の積み重ねでできている。

子どもの頃、実家で飼っていた柴犬を車に乗せると、いつも窓の外に向かって吠え続けていた。父が「うるさい」と言いながらも、助手席の窓を少しだけ開けてやっていたのを覚えている。あのころはシートベルトもクレートも関係なかった。今思えば危なかったけれど、犬も人間も、もう少しおおらかな時代だった。

走行中に愛犬をクレートに入れることの重要性は徐々に広まっているが、まだ実践している飼い主は少ないのが現状だ。
わたし自身、ムギを助手席に乗せてしまった今日がまさにその「まだ少ない」側だったと、この文章を書きながら反省している。次の旅では、ちゃんとクレートに入れる。たぶん。

ドライブ経験が少ない犬の場合は、いきなり長距離移動に挑戦するのではなく、近場へのお出かけから少しずつ慣らしていくことが大切だ。
ムギは三歳になる前から車に乗せていたので、今ではエンジン音を聞くと尻尾を振る。それだけで、積み重ねてきた時間の重さを感じる。

目的地まであと八十キロというあたりで、ムギはまたうとうとし始めた。後部座席のタオルの上で、鼻先を前足に乗せて、ゆっくりと目を閉じていく。その小さな寝息が、エアコンの音に混じって聞こえてくる。窓の外には、黄色に色づきかけた田んぼが続いていた。

ペットとの生活は、こんなふうにして風景を変える。ひとりで走っていたら気にも留めなかった景色が、助手席に誰かがいるだけで、少し違って見える。長距離移動の疲れも、不思議と軽くなる。

注意することはたくさんある。温度管理、休憩のタイミング、水分補給、安全な固定方法。でも、それ以上に大切なのは、隣にいる存在を感じながら走ること、かもしれない。ムギの寝息を聞きながら、わたしはアクセルをそっと踏んだ。

組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:UETSUJI TOSHIYUKI

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