ペットが玄関で待ってる生活って、思ってたのと全然違った

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会社のドアを出た瞬間、もう帰りたくなる。

一人暮らしを始めて三年目の春、ふと「このまま誰もいない部屋に帰るのか」って思ったら急に寂しくなって、翌週にはペットショップにいた。衝動的すぎるって自分でも思うけど、あのとき見たハムスターの丸まった背中が妙に刺さってしまって。名前はまだ決めてない。「ハムちゃん」って呼んでるけど、これ仮の名前のまま定着しそうで怖い。

帰宅するときの高揚感が変わった。鍵を開ける音がするだけで、ケージの中でガサガサ動く気配がする。あれ、聞こえてるんだよね。夜の八時半とか九時とか、残業して疲れ切った体で玄関に立つと、廊下の奥からカリカリって音。ああ、起きてるなって分かる。別に犬みたいに飛びついてくるわけじゃないし、猫みたいに鳴いて迎えてくれるわけでもないんだけど、あの小さな存在が「誰かいる」って空気を作ってくれてる感じ。

最初の一週間は正直、面倒だった。

エサやって、水替えて、トイレ掃除して。こんなに手がかかるとは思わなくて、ちょっと後悔した。でも十日目くらいに、仕事でめちゃくちゃ怒られた日があって。上司に理不尽なこと言われて、取引先には無茶振りされて、もう全部投げ出したくなった夜。部屋に帰ってソファに倒れ込んだら、ハムちゃんが回し車をカラカラ回してた。無心に、ただひたすらに。なんかそれ見てたら笑えてきて、「お前も大変だな」って声かけたら、こっち見てピタッと止まった。そこからまた走り出したけど。

そういえば前に、友達が「ペットって癒しだよね」って言ってたのを鼻で笑ったことがある。

癒しとか、そんな都合のいいものじゃないだろって。生き物なんだから責任も手間もかかるし、自分の時間削られるし。でも今なら分かる。癒しっていうより、「自分以外の誰かのために動く理由」なんだよね。朝起きるのも、早く帰ろうと思うのも、週末に掃除するのも、全部ハムちゃんがいるから。一人だったら適当に済ませてたこと、ちゃんとやるようになった。エサ買いに行くついでにスーパー寄って、自分の食材も買うようになったし。生活のリズムが整ってきた気がする。

冬の夜は特にいい。暖房つけた部屋で、ケージの前に座ってぼーっと眺める時間。ハムちゃんはヒマワリの種を両手で持って、カリカリ食べてる。あの小さな手、器用に種の殻むくんだよね。最初見たとき感動した。人間の指みたいに動かして、中身だけ食べる。で、殻はペッて吐き出す。そのしぐさがたまらなく可愛くて、動画撮ったりしてる。誰に見せるわけでもないけど、スマホのフォルダがハムちゃんだらけになってる。

ペット飼ってない友達に話すと、「大変じゃない?」ってよく聞かれる。

大変かって言われたら、まあ大変。旅行も気軽に行けなくなったし、朝は絶対エサやらなきゃいけないし。でもそれって、大変っていうより「当たり前」になってる。歯磨きするのと同じレベルで、ハムちゃんの世話が日常に組み込まれてる感じ。むしろ、何もしなくていい日があったら逆に落ち着かないかも。

ある日、会社で嫌なことがあって、帰りに駅前のバーに寄った。一人でカウンターに座って、ハイボール飲みながらスマホいじってたら、隣のサラリーマンが「ペット飼ってるんですか?」って話しかけてきた。画面にハムちゃんの写真が映ってたらしい。「ハムスターです」って答えたら、「いいですね、帰ったら待っててくれるんでしょ?」って。待っててくれるっていうか、ただそこにいるだけなんだけど、なんか嬉しくなって「そうですね」って答えた。その人も犬飼ってるらしくて、しばらくペットの話で盛り上がった。見知らぬ人と、ペットの話だけで三十分も喋ったの初めてだった。

帰宅すると、やっぱりガサガサ音がする。

電気つけて、ケージ覗くと、ハムちゃんが巣箱から顔出してこっち見てる。「ただいま」って言うと、出てきてエサ皿のほうに歩いていく。お腹空いてたのかな。ペレットを補充してあげると、すぐに食べ始める。その横顔を見ながら、今日も一日終わったなって思う。明日もまた会社行って、帰ってきて、この子にエサあげて。そんな繰り返し。

ペットがいる生活って、劇的に何かが変わるわけじゃない。でも、帰る場所に誰かがいるっていう安心感は確実にある。それが犬でも猫でもハムスターでも、たぶん同じ。ドアを開けたときの、あの小さな気配。それだけで、今日も頑張れたなって思える…だけど。

組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:UETSUJI TOSHIYUKI

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