ペットが病気になった日、私たちにできること

Uncategorized

Uploaded Image

朝、いつもと違う静けさがあった。

愛犬のムギ——柴犬の雑種で、耳だけがなぜか垂れている——が、朝ごはんに見向きもしなかった。器の前に座ったまま、鼻先だけをちょんと近づけて、そっと顔を背ける。その小さな仕草に、胸の奥がざわりとした。食欲がないというのは、ペットとの生活の中で見逃してはいけないサインのひとつだと、どこかで読んだことがある。でも実際にそれが目の前に起きると、頭の中の知識よりも先に、感情のほうが動く。

体温を測ろうとして、ムギに嫌がられた。肛門体温計を構えた瞬間、くるりと身体をひねって逃げていった。そのあまりにも素早い回転に、思わず笑ってしまった——こんな状況なのに、である。でも笑えたのはほんの一瞬で、すぐに不安が戻ってきた。

ペット病院に電話をかけたのは、午前9時を少し過ぎた頃だった。窓から差し込む秋の光が、フローリングに細長い影を作っていた。電話口の向こうで「午後2時なら診られます」と言われて、それまでの5時間をどう過ごすかを考えた。ムギは日当たりのいいソファの隅で、丸くなっていた。呼吸はゆっくりで、時々小さく息をついた。

子どもの頃、飼っていたハムスターが急に元気をなくした日のことを思い出す。あの時、親に「病院に連れて行って」と泣いて頼んだのに、「ハムスターは病院に行かなくていい」と言われた。今思えばそれは間違いだったし、あの経験が、ペットの不調を絶対に見逃したくないという気持ちの根っこにあるかもしれない。

病院までの道のりは、車で15分ほど。ムギをキャリーバッグに入れると、中でじっとしていた。いつもなら外の景色が気になってそわそわするのに、その日は静かだった。その静けさが、かえって心に重くのしかかる。

診察室に入ると、獣医師の先生がムギの腹部をゆっくりと触診した。先生の手つきは穏やかで、ムギも抵抗しなかった。「胃腸の調子が少し悪いようですね。熱もわずかにあります」と言われた。重篤なものではなかった。それを聞いた瞬間、肩から力が抜けるのがわかった。処方されたのは整腸剤と、消化の良い療法食。「2〜3日様子を見てください」という言葉とともに、帰路についた。

ペット保険に加入していたのは、ムギを迎えてすぐのことだった。「ペルシモン少額短期保険」という、少し変わった名前の会社のプランで、友人に勧められて何となく入った。正直なところ、最初の1年は「使う機会なんてないだろう」と思っていた。でも今日、診察費と薬代の合計を見て、加入しておいてよかったと素直に思った。保険があることで、「費用が心配で病院に行くのを迷う」という状況を避けられる。それはペットにとっても、飼い主にとっても、大切なことだと感じた。

帰宅してから、ムギに療法食を少しだけ与えてみた。今度は、ゆっくりと食べた。全部は食べなかったけれど、口をつけてくれた。それだけで、ずいぶん気持ちが楽になった。

ペットとの生活は、日々の積み重ねだ。散歩の習慣、食事の量、排泄の状態、毛並みのつや。そういった細かなことに目を向けていると、「いつもと違う」を早めに察知できる。それが早期発見につながり、治療の選択肢を広げることになる。

夜、ムギはまた丸くなって眠った。今度は穏やかな寝息を立てながら。部屋の中に、かすかにハーブのような薬の匂いが残っていた。窓の外は静かで、秋の夜らしい冷たさが窓ガラス越しに伝わってくる。

ペットは言葉を持たない。だから、飼い主が気づくしかない。その責任は重いけれど、同時に、気づけることの喜びでもある。ムギの小さな変化に気づけた今日という日を、少しだけ誇りに思っていた。

組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:UETSUJI TOSHIYUKI

コメント

タイトルとURLをコピーしました