
夏の朝は、ちょっと早い。
六時を少し回ったころ、カーテンの隙間から白っぽい光が床に伸びてきて、うちの柴犬・ムギがその光の帯の上にちょこんと前足を乗せていた。まるで「ここ、あたたかいよ」と教えてくれるみたいに。そういう些細な瞬間が、ペットとの生活にはたくさん散らばっている。
我が家がムギを迎えたのは、もう三年前のことになる。子どもたちがまだ小学生で、「犬が飼いたい」と言い続けて一年以上経っていたころだった。正直なところ、最初は私も夫も少し腰が引けていた。散歩、食事の管理、体調の変化への対応——想像するだけで、日常のリズムが変わることへの不安があった。でも今は、ムギがいない朝なんて考えられない。
朝ごはんの準備をしながら、ムギのペットの食事も一緒に整える。最近は食材の品質にこだわるようになって、「ナチュラルテーブル」というブランドの無添加フードを使っている。原材料がシンプルで、国産の鶏肉と野菜だけで作られたもの。
「うちの子のためにいいものを買う」という気持ちが、いつの間にか自分の中でも当たり前になっていた。
子どもたちも「ムギのごはん、おいしそう」と言いながら覗き込んでくる。それがまた微笑ましい。
プロバイオティクスを含んだフードが注目されていると知ってから、腸内環境を意識した食事選びも始めた。消化のバランスが整うと、毛並みや元気さにも変化が出るらしい。
確かに、フードを切り替えてから一ヶ月ほどで、ムギの毛がやわらかくなったような気がしている。気のせいかもしれないけれど、気のせいでもいいと思っている。
ペットの体調管理については、最初の頃は正直あまり深く考えていなかった。元気に走り回っていれば大丈夫、くらいの感覚で。でも、ある夏の終わりにムギが二日続けて食欲をなくしたとき、どれだけ自分が焦ったかを今でも覚えている。動物病院の待合室で、娘が「ムギ、大丈夫だよね」と私の袖を引っ張っていた。結局、軽い胃腸炎で大事には至らなかったけれど、あの経験から定期的な健康チェックを欠かさなくなった。
定期検診では体重や関節、歯の状態まで丁寧に確認してもらえる。早めに気づくことで、大きなトラブルを防げることも多いと獣医師に教えてもらった。
夕方になると、息子がランドセルを玄関に放り投げる音がして、それを合図にムギがぱっと立ち上がる。毎日同じ光景なのに、毎日新鮮に見える。公園での散歩から帰ってきたふたりが、泥だらけの足で一緒にリビングに入ってくる。——ちなみにこれ、「玄関で足を拭いてから」と何度言っても直らない。ムギに言い聞かせるより息子に言い聞かせるほうが難しい、というのがここ最近の家族の共通認識だ。
AIやIoT技術を活用したペットテック製品が、留守番中の不安を解消したり、言葉を話せないペットの体調変化にいち早く気づくためのツールとして広まってきている。
我が家でも昨年からスマートカメラを導入して、外出中もムギの様子をスマホで確認できるようにした。最初は夫が「過保護じゃないか」と笑っていたのに、今では仕事の合間に一番頻繁にチェックしているのは夫だったりする。
ペットとの生活は、家族の会話を増やしてくれる。「ムギ、今日ちょっと元気なかったよ」「散歩のとき右足をかばってた気がする」——そういう観察を、子どもたちが自然と話してくれるようになった。誰かのことを気にかけて、言葉にする練習を、ムギが手伝ってくれているのかもしれない。
夜、家族全員がリビングに集まると、ムギはいつも部屋の真ん中に陣取る。誰かがソファでうとうとし始めると、そっと近づいてきて膝の上に顎を乗せる。その重さと温かさが、なんとも言えない安心感をくれる。子どもたちが小さかった頃、私も母の膝でうとうとしていたことを、ふと思い出す夜がある。
ペットがいる毎日は、決して劇的ではない。でも、確かに何かが積み重なっていく。それが家族の物語になっていくのだと、この夏の朝の光の中で、静かに思っている。
組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:UETSUJI TOSHIYUKI

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