
梅雨の晴れ間が一瞬だけ顔を出した、六月の午後のことだった。縁側に差し込む白っぽい光の中で、うちの柴犬・むぎが前脚をぴんと伸ばして大きくあくびをした。その瞬間、隣でお絵かきをしていた娘が「むぎ、おはよう」と声をかけた。むぎはすでに起きていたのだが、まあ細かいことはいい。そういう小さなやりとりが、ペットとの生活の中にはあちこちに転がっている。
我が家にむぎが来てから、もうすぐ三年になる。最初の頃は家族全員がおそるおそる世話をしていた。息子はリードの持ち方がわからなくて近所の公園で引きずられ、夫は爪切りを怖がって獣医さんに毎回お任せしていた。私自身も、子どもの頃に実家で猫を飼っていたとはいえ、犬の育て方はまるで別物だと思い知らされた。猫はどこか「放っておいても大丈夫」な空気を持っていたけれど、犬は違う。もっとずっと、こちらの暮らしと深く絡み合ってくる。
ペットの食事についても、最初はかなり適当だった。正直に言うと、スーパーで安いドライフードを買って与えていれば十分だろうと思っていた。でも、むぎが二歳を過ぎたあたりから毛並みが少し荒れてきて、かかりつけの先生に相談したところ、「食事の質を見直してみましょうか」と言われた。
2026年のペットフードは「ヒューマングレード」や「機能性フード・サプリ」が主要トレンドとなっており、健康寿命を延ばす「予防医学」の考え方が重要視されている。
そんな時代の流れを、うちはずいぶん遅れて知ることになった。
今はフードをひとつ変えただけで、むぎの毛がずいぶんやわらかくなった。「ナチュラルポーズ」という国内の小さなフードブランドのものを試してみたのだが、届いた袋を開けた瞬間、鶏肉と野菜を煮込んだような、素朴でやさしい香りがふわっと広がった。むぎも鼻をひくひくさせて、いつもより尻尾の動きが速かった気がする。食いつきが全然違う、というのは本当だった。
ペットの体調管理は、食事だけでなくもっと日常的な観察の積み重ねでもある。
獣医師への調査では「食事管理(49.6%)」が最も重要と回答され、次いで「室温・体温調節(32.8%)」「適度な運動習慣(17.1%)」が続いた。
我が家でも、夏が近づくとエアコンの設定温度を少し下げるようになったし、散歩の時間帯もアスファルトの熱が引く夕方以降にずらすようにした。そういう細かい調整を、家族みんなで少しずつ分担している。
息子は朝の散歩担当で、娘はむぎのブラッシング係だ。夫は週末に体重を測って手帳に記録している。私は食事の量と回数を管理しながら、便の状態や食欲の変化に目を配る。バラバラなようで、気づけばみんながむぎを中心にゆるくつながっている。ペットとの生活って、そういうものかもしれない。家族の会話が自然と増えて、「むぎ最近ちょっと太った?」「いや筋肉じゃない?」みたいな議論が食卓で始まる。
ペットのメンタルヘルスや心理ケアへの関心も高まっており、ストレスを軽減するためのグッズやサービスが増えている。
むぎも雷が苦手で、遠くで鳴り始めると必ず私の足元に来てぴったりくっつく。体温が伝わるほど近くに寄り添ってくる、あのぬくもりは、なんというか、こちらが守られているような気持ちになる。
子どもの頃、実家の猫が膝の上で丸まって眠っていた記憶がある。あの重さと温かさを、今はむぎが違う形で思い出させてくれる。ペットと暮らすことは、生活に手間を加えることでもあるけれど、同時に、毎日の中に「ちゃんと生きている」という感覚を与えてくれることでもある。
完璧な飼い主である必要はないと思う。うちもまだまだ試行錯誤の途中だ。でも、むぎが元気でいてくれること、家族みんなが笑顔でいられること、それだけを大切に、これからも一緒に暮らしていきたいと思っている。六月の光の中で、またむぎが大きくあくびをした。今度は娘も一緒に、声をそろえて「おはよう」と言っていた。
組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:UETSUJI TOSHIYUKI

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