ペットが病気になった夜、私たちにできること——ペットとの生活が教えてくれた備えの大切さ

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七月の終わり、夜の九時を過ぎた頃だった。リビングの床に敷いたラグの上で、いつもなら私の足元にすり寄ってくるはずの柴犬・むぎが、丸まったまま動こうとしなかった。

夕飯のにおいにも反応しない。それだけで、何かが違うとわかった。ペットとの生活を五年続けてきた私でも、こういう瞬間は毎回、胸の奥がぎゅっと締まる。エアコンの低い稼働音だけが部屋に響いていて、むぎの呼吸が少し浅いことに気づいたのはそのときだった。

まず体に触れた。耳の裏が、いつもより熱い。

こういうとき、頭の中が一気にざわめく。「様子を見るべきか」「すぐ動くべきか」。その判断が、ペットの命に直結することもある。経験則として言えるのは、「食欲の消失」「ぐったりした様子」「呼吸の乱れ」「嘔吐や下痢の繰り返し」のいずれかが重なったとき、迷わずペット病院へ向かうべきだということだ。深夜であれば、夜間対応の救急動物病院を事前に調べておくことが欠かせない。むぎが元気なうちに、私はスマートフォンのメモに近隣の「よつば動物救急クリニック」の番号を控えていた。あの夜、そのメモが本当に役に立った。

ペットには人間の健康保険のような制度がなく、病院に連れて行くと診療費は全額自己負担となる。
それが現実だ。むぎの診察と点滴、血液検査で、その夜だけで三万円近くかかった。財布の中身を確認しながら、「ペット保険に入っておいてよかった」と、心の底から思った。
入院が数日に及べば総額で数万円になることもあり、手術ともなれば数万から数十万円になることもある。
いざというときに「お金が心配で治療をためらう」という状況だけは、絶対に避けたかった。
ペット保険は、通院・入院・手術それぞれの診療費をカバーするのが基本で、診察費・治療費・薬の費用が保険でカバーできる。

元気で健康なうちの加入をおすすめする、というのがペット保険の大前提だ。
これは声を大にして言いたい。むぎを迎えた生後三ヶ月のとき、正直なところ「まだ若いし」と思っていた自分がいた。加入を決めたのは、友人に背中を押されたからで、自分の判断だったとは言い難い。でも今となっては、あのとき渋々サインした書類に、何度も助けられている。

ペット病院での診察を終えて帰宅したのは深夜一時を過ぎていた。むぎは点滴のおかげか、少しだけ目に力が戻っていた。ケージに寝かせようとしたら、ふらつきながらも私の手をぺろりと一舐めして、そのままうとうとし始めた。思わず笑ってしまった。こっちはまだ心臓がバクバクしているのに、当の本人はもう夢の中である。まったく、ずるい。

ペットとの生活は、喜びと心配が常に隣り合わせだ。
近年では飼育環境や医療技術の向上によりペットの長寿・高齢化が進んでおり、それに伴い病気やケガのリスクも上昇している。
だからこそ、日頃からペット病院と良好な関係を築いておくことが大切になる。かかりつけの獣医師がいれば、ちょっとした変化を電話で相談できるし、過去の診察記録があるから診断もスムーズだ。

子どもの頃、実家で飼っていた猫が急に食欲をなくしたとき、母が「様子を見ましょう」と言い続けて手遅れになりかけたことがある。あのときの後悔が、今の自分の行動を決めているのかもしれない。「迷ったら動く」——それが、ペットと暮らす上で私が決めた唯一のルールだ。

むぎは翌朝、いつもの時間に起きてきて、ごはんの器の前でちょこんと座って待っていた。その小さな背中を見ながら、コーヒーを一口飲んだ。朝の光が窓から斜めに差し込んで、むぎの茶色い毛並みをやわらかく照らしていた。何でもない、ただの朝。でも、そういう朝がずっと続いてほしいと、静かに、強く思う。

組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:UETSUJI TOSHIYUKI

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