ペットと行く長距離ドライブ旅——助手席の窓から、風が吹いていた

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出発は朝の六時ごろだった。まだ空の端が薄紫色に滲んでいて、アスファルトだけが妙に白く光っている、そういう時間。助手席にはうちの犬、麦(むぎ)がいた。ミニチュアシュナウザーの四歳。クレートに収まりながら、すでに鼻先をケージの格子に押しつけて、外の気配を嗅いでいた。

2026年、ペット同伴旅行の予約は前年比260%増と大幅に急増している。
ペットとの生活がより豊かに、より遠くへと広がっている時代だ。それでも、いざ自分が犬を連れて長距離移動するとなると、準備の多さに少し気が遠くなる。旅の前夜、荷物を並べながら何度も確認リストを見返した記憶がある。

エンジンをかけると、麦がぴくりと耳を立てた。エアコンの風がクレートに当たらないよう、吹き出し口の角度を調整する。
犬の適温の目安は21〜25℃とされており、クレートの中は熱がこもりやすいため、こまめに温度や空気の流れを確認する必要がある。
夏の車内は特に油断できない。サンシェードをリアガラスに貼り、日差しが直接当たらないようにしておいた。

高速に乗ってしばらくすると、麦は静かになった。ときどきバックミラー越しに確認すると、目を細めて揺れに身を任せていた。うとうとしているのか、ただ景色を眺めているのか、判断がつかない。犬の表情は読みづらいようで、意外と読める。少なくとも、怖がってはいない。それだけでよかった。

1〜2時間おきを目安に休憩を取り、水分を与えたり外へ連れ出したりして気分転換を図ることが大切だ。車外に連れ出す際は、必ずリードを取り付けてからドアを開けること。
これは何度読んでも、実際の場面では焦る。サービスエリアで麦をクレートから出そうとしたとき、リードをつける前に扉を少し開けてしまって、ヒヤッとした。麦は逃げなかった。ただじっとこちらを見ていた。まるで「何やってるの」とでも言いたそうな顔で。——これが今回の旅で一番心臓に悪かった瞬間かもしれない。

SAやPAには大勢の人がいて、動物アレルギーや動物が苦手な人もいる。立ち寄る際は必ずリードをつけて行動し、トラブルを未然に防ぐことが大切だ。
ドッグランが併設されているエリアを事前に調べておいたのは正解だった。麦は短い時間でも、地面の匂いを嗅ぎ回ることで気持ちがリセットされるらしく、ランの外に出るころには目が少し生き生きしていた。

食事は車に乗る2〜3時間前に済ませ、軽い運動やお散歩をしておくことが車酔い対策として有効だ。
出発前にそれを実践したおかげか、今回は車酔いの気配がなかった。以前、準備が甘かったときは途中で嘔吐してしまい、車内の片付けに30分かかったことがある。子どものころ、家族でドライブ中に自分が酔って泣いた記憶と重なって、少し申し訳ない気持ちになった。

目的地は、長野の山間にある小さな宿「ハコネムラ山荘」。ペット同伴を歓迎する宿で、部屋にはペット用のマットと、陶器製の水皿が用意されていた。到着したとき、麦はすぐに部屋の隅の匂いを確認しはじめた。自分の匂いのついたブランケットを持参していたので、
環境の変わる場所でも自分の匂いのついたアイテムがあると安心感が得られやすい。
麦はそのブランケットの上に丸くなって、ようやく目を閉じた。

ペットとの生活は、旅をすることでまた少し変わる。日常のルーティンから離れて、知らない空気の中に一緒に立つことで、犬との距離感のようなものが、ほんの少し縮まる気がする。長距離移動には確かに注意することが多い。温度管理、休憩のタイミング、リードの確認、迷子札のチェック。でも、それらをひとつひとつこなしていく時間そのものが、旅の一部になっていく。

窓の外、山の稜線が夕暮れの橙に染まっていた。麦の鼻が、また動いていた。

組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:UETSUJI TOSHIYUKI

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