
秋の朝というのは、不思議なほど静かに始まる。十月に入ったばかりのこの季節、窓の外にはまだ薄い霧が漂っていて、台所に差し込む朝の光がどこか柔らかい。コーヒーメーカーがぽこぽこと音を立て始めるのと同時に、フローリングの廊下をぱたぱたと小さな足音が駆けてくる。我が家のビーグル、ムギだ。
ムギがうちに来てから、もうすぐ三年になる。
犬や猫はいまや、家族の一員として扱われる存在になっている。
それは統計が示す以前に、毎朝この台所で感じることだ。娘がソファで宿題をしていれば隣に丸まり、夫がリモートワークで疲れて背もたれに倒れ込めば、すかさず膝に顎を乗せる。誰かがそこにいる、ということをムギは決して見逃さない。
ペットとの生活を始めた当初、私が一番戸惑ったのは「食事」のことだった。何をどれだけ与えればいいのか、まったく分からなかった。近所のペットショップ「ノルドパウ」の店員さんに相談しながら、ようやく少しずつ学んでいった。
品種別・ライフステージ別の機能性フードが登場し、オーガニックやグレインフリー、無添加といった選択肢への需要が高まっている。
最初は「そこまで必要?」と半信半疑だったけれど、ペットの食事に向き合うほど、その奥深さに引き込まれていった。今では原材料表示を読む癖がついてしまい、スーパーで自分の食材を選ぶときより真剣になっているかもしれない。
ムギのご飯を準備していると、必ず息子の颯太がやってくる。「ぼくがあげる」と言って、計量カップを持つ手がちょっとだけ傾く。いつもほんの少し多めになる。その「ほんの少し」が積み重なると困るのだが、颯太の顔があまりにも真剣なので、つい見逃してしまう。ムギも分かっているのか、颯太のそばでは特別にしっぽを振る回数が多い気がする。
ペットの体調管理については、正直なところ、最初の一年は後手に回ることが多かった。
愛犬の健康管理において最も気を遣うべきことは食事管理であるという意見が最も多く、室温・体温調節や適度な運動習慣も重要だとされている。
それを知ったのは、ムギが二歳のとき、少し元気がなくなった時期があってからだ。動物病院の先生に「もっと早く連れてきてください」と穏やかに言われた。その言葉が今も耳に残っている。それ以来、毎朝ムギの様子を観察することが、私の日課になった。食欲はあるか、目に輝きがあるか、歩き方に違和感はないか。
ペットは本能的に体調不良を隠そうとする習性があるため、日々の変化に気づいてあげることが大切だ。
だからこそ、ペットとの生活は「一緒にいる時間の質」がものを言う。スマートデバイスで管理する方法もあるが、我が家ではまだアナログな観察が主流だ。それはそれで、悪くないと思っている。
子どもの頃、実家にいたシェルティのことを思い出す。あの犬は雨の日になると必ず玄関マットの上で丸まっていた。濡れた土の匂いと、犬の温かい体の感触が、今でも指先に蘇るような気がする。ペットとの生活が持つ、言葉にならない豊かさというのは、たぶんそういうところにある。
夕暮れ時、家族四人とムギがリビングに集まる時間が好きだ。娘がムギの耳をそっと触りながら「今日ね」と話しかけ、ムギがうとうとしながらもしっぽだけかすかに動かしている。窓の外には茜色の光が広がり、部屋の中はほんのり暖かい。誰も急いでいない。
ペットとの生活は、家族のリズムをゆっくりと変えていく。食事を丁寧に考え、体調の小さな変化に敏感になり、何より「今ここにいること」を大切にするようになる。それはムギが教えてくれたことであり、颯太が毎朝ご飯を少し多めによそいながら、無言で実践していることでもある。
この秋の朝も、コーヒーの香りとムギの足音から始まる。それだけで、今日もいい一日になる気がしている。
組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:UETSUJI TOSHIYUKI


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