ペットと行く長距離ドライブ旅——助手席の窓から、夏風が吹いた日のこと

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朝の五時半、まだ空が薄紫色に染まっているうちに、わたしたちは出発した。助手席のクレートの中で、柴犬のムギがくるりと一回転してから丸くなる。その小さな仕草を横目に確認しながら、エンジンをかける。夏の早朝特有の、草と湿った土が混じったような香りが、窓の隙間からかすかに入ってくる。こういう瞬間が好きだ、と思う。旅の始まりは、いつもこんなふうに静かで、少しだけ胸が高鳴る。

目的地は、長野の山あいにある「霧ノ沢」という小さな集落だ。片道およそ四時間。ペットとの生活を送るようになってから、旅のスタイルはずいぶん変わった。新幹線でさっと移動するより、多少時間がかかっても車を選ぶ。ムギのペースに合わせられるし、何より彼女が窓の外を眺めるときの顔が、どこか誇らしげで好きなのだ。

長距離移動の前には、必ず乗車前にトイレを済ませておく。
これは絶対に外せない手順で、わたしも何度か忘れかけて冷や汗をかいた経験がある。今日も出発前にしっかり公園を一周して、ムギに用を足させた。
食事は乗車の二〜三時間前に済ませておくのが基本で、車酔いを防ぐためにも軽い散歩を挟むのが理想的だ。

高速に乗ってしばらくすると、ムギがクレートの中でふいに鼻をひくひくさせた。何の匂いを嗅いでいるのだろう。外はもうすっかり明るくなっていて、田んぼの緑が朝日を受けて光っている。窓越しに見えるその景色は、夏の盛りというよりまだ初夏の清潔さを残していた。

一〜二時間おきを目安に休憩を取ることが、犬との長距離移動では大切だ。休憩では水を与え、外へ連れ出して気分転換を図る。
最初のSAで車を止めると、ムギは「ここはどこだ」という顔でキョロキョロしながら、リードを引っ張ってわたしを引きずりそうになった。体重七キロそこそこの犬に引きずられそうになるのは、飼い主としてどうなのかと思わなくもないが、まあ、それがムギらしい。

SAやPAには大勢の人がいる。動物が苦手な人もいるため、必ずリードをつけて行動することがトラブルを防ぐ基本だ。
ムギは人懐っこい性格で、すれ違う子どもに尻尾を振りすぎて転びそうになっていた。わたしも子どもの頃、祖父の家の犬に同じように飛びつかれた記憶がある。あのときの犬の名前はクロといって、体が大きいくせにひどく甘えん坊だった。ムギを見るたびに、なぜかクロのことを思い出す。

車内の温度や揺れ、音などで体調を崩すこともあるため、車内環境の改善と定期的な休憩は欠かせない。
犬の適温の目安は二十一〜二十五度で、クレートの中は熱がこもりやすいため、こまめに様子を確認することが重要だ。
今日は曇りがちで気温もそこまで上がらず、その点は助かった。

二度目の休憩を終えて車に戻ると、ムギはクレートの中でうとうとしていた。目が半開きになって、耳だけがぴくぴく動いている。その姿がなんともかわいくて、思わずスマートフォンで写真を撮った。ブランド「ポルカドットテイル」のチェック柄ブランケットにあごを乗せて、ムギは夢の中にいるようだった。

霧ノ沢に着いたのは、昼前のこと。山の空気はひんやりとしていて、杉の香りが鼻の奥に届いた。ムギはクレートから出た瞬間、全身でその空気を吸い込むように鼻を動かした。見知らぬ土地の匂いを確かめるように、ゆっくりと、ていねいに。

ペットとの生活は、旅の解像度を上げてくれると思う。目的地に急ぐだけでなく、途中の景色や、空気の温度や、一匹の小さな生き物が何に反応するかを、丁寧に見るようになった。長距離移動には注意することも多いけれど、それを含めてすべてが旅の一部だ。ムギが霧ノ沢の草の上で、ぐるぐると走り回る姿を見ながら、来てよかった、とただそれだけを思った。

組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:UETSUJI TOSHIYUKI

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