
梅雨の晴れ間というのは、どこか罪悪感をともなう明るさがある。洗濯物を干すべきか、それとも思い切って出かけてしまうべきか。そんな迷いを断ち切るように、後部座席のムギ——三歳になるトイプードル——が鼻先を窓ガラスにぴたりと押しつけて、尻尾を振り始めた。決断はそこで終わった。
ペットを家族の一員として旅に連れ出す動きは、今や旅行業界における重要なトレンドとなっており、さらなる拡大が見込まれている。
ペットとの生活が豊かになるにつれ、週末のドライブひとつとっても、準備の質がまるで変わってきた。ムギとはじめて長距離移動に挑んだのは、確か去年の秋口だった。関越道を北に向かい、群馬の山あいにある「ハルノカワ温泉」という小さな宿を目指した旅だ。あの日の車内の空気——エアコンがほんのり効いて、ムギの毛の匂いと、助手席に置いた缶コーヒーの甘い湯気が混ざり合っていた感触を、今でもよく覚えている。
ペットとの生活を車旅へと広げるとき、まず頭に入れておきたいのが出発前の準備だ。
車酔いを防ぐには、強すぎる芳香剤やドライブ直前の食事を避け、できるだけ穏やかな運転を心がけることが大切で、普段から車酔いしやすい犬の場合には動物病院で獣医師に相談し、酔い止めの薬を処方してもらうとよい。
あの初回の旅でも、出発の二時間前にムギのご飯を済ませ、近所を一周散歩させてから乗せた。それでも最初のうちは後部座席でそわそわと立ったり座ったりを繰り返し、私はバックミラーでその様子をちらちら確認しながら、なんとなく自分も落ち着かなかった。
注意することのなかでも、長距離移動において特に重要なのが休憩のリズムだ。
ドライブ中に大切なのはこまめに休憩を取ることと、休憩の都度愛犬の体調を確認したり運動させたりすることで、休憩は一〜二時間につき二十〜三十分程度が理想とされている。
群馬へ向かうあの日も、上里サービスエリアで一度停まった。駐車場の端に設けられたドッグランにムギを放すと、それまでのそわそわがうそのように、全力で芝生を駆け回った。六月の朝、草の上に残った夜露が靴底に染みてくる感触。ムギが走るたびに飛び散る水滴が朝日を受けて光っていた。あの光景は、目的地よりも先に記憶に刻まれた。
ちなみに、あの旅でひとつだけ笑えない失敗をした。サービスエリアを出発する際、リードをつけたまま車のドアを開けてしまい、ムギが一瞬だけ駐車場に飛び出したのだ。幸い数歩で止まったが、私はそのまま三秒ほど固まった。ムギはといえば、何事もなかったように振り返って「早く乗ろうよ」という顔をしていた。——以来、ドアを開ける前にリードを確認する癖がついた。
ペットとの車旅で一番気をつけたいのが移動中の「愛犬の体調管理」で、人間にとっては快適なドライブでも、ペットにとっては揺れやニオイ、見知らぬ景色が大きなストレスになり、車酔いや疲労の原因になる。
ムギが後部座席でうとうとしはじめると、私はなぜかアクセルを踏む足が少し軽くなる。揺らさないように、という気遣いが自然と生まれる。
犬の適温の目安は二十一〜二十五℃が目安で、クレートやキャリーの中は熱がこもりやすいため、愛犬の様子をこまめに確認し、車内の温度や空気の流れを調節することが大切だ。
ペット同伴旅行は「短時間で詰め込む」よりも「のんびり滞在型」が好まれる傾向があり、施設が整っていれば「また来たい」「今度は別の季節に」とリピート率も向上する。
それは旅の組み立て方そのものを変えていく。以前は目的地の数を競うように計画を立てていたのに、今は「どこで停まるか」「ムギがどこで走れるか」を先に考える。ペットとの生活が、旅のテンポを人間中心から解放してくれた、とも言える。
ドッグランやワンちゃん用の施設を利用するときには、一年以内の狂犬病予防接種証明書と混合ワクチン接種証明書が必要不可欠で、ワクチンの接種期限が一年を過ぎていないかどうかの確認も必ずしておきたい。
こういった書類の準備は、旅の前夜に確認するより、ひと月前から習慣にしておくほうが気持ちが楽だ。
長距離移動を重ねるうちに、ムギは少しずつ車が好きになった。今では乗り込む前から尻尾が止まらない。あの初回の緊張した後部座席とは別の犬のようだ。梅雨の晴れ間に窓ガラスへ鼻を押しつけるのも、きっとそういうことだろう。行こう、と言っている。
組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:UETSUJI TOSHIYUKI

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