ペットが病気になった夜、わたしたちにできること

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梅雨の入り口、六月の夜は湿った空気がカーテンの隙間からじわりと忍び込んでくる。台所でお湯を沸かしながら、ふと視線を落とすと、いつもなら足元にまとわりついてくるはずの柴犬・むぎの姿がない。リビングに戻ると、むぎはクッションの端でうずくまるように丸まり、いつもは黒く光る瞳がどこか遠くを見ていた。ごはんも半分残っている。その瞬間、胃のあたりがすっと冷えた。

ペットとの生活を始めてから、こういう瞬間が必ずやってくることは、頭のどこかで知っていた。でも、いざ目の前にすると、知識と感情はまるで別の引き出しに入っているもので、なかなか冷静には動けない。わたしが真っ先にしたのは、スマートフォンで「犬 ぐったり 食欲ない」と検索することだった。出てくる情報は多すぎて、かえって不安が膨らんでいく。

そこで思い出したのが、近所の「ハナモリ動物病院」のことだ。以前から気になっていたものの、健康診断すら後回しにしていた。翌朝、開院と同時に電話をかけると、やさしい声のスタッフが「まず症状を教えてください」と言ってくれた。その一言だけで、少し肩の力が抜けた。ペット病院というのは、病気になってから初めて駆け込む場所ではなく、日頃から関係を築いておく場所なのだと、そのとき初めて実感した。

診察室に入ると、むぎは診察台の上でぶるぶると震えていた。先生がやさしく腹部を触診するたびに、むぎがちらりとわたしの顔を見る。その仕草が、なんとも言えなかった。怖いのか、痛いのか、それとも「ここにいるよ」と確認しているのか。検査の結果、軽度の胃腸炎との診断で、数日の投薬で回復できるとのことだった。ほっとしたと同時に、「もう少し早く来ていれば」という後悔が静かに残った。

帰り道、むぎをキャリーバッグに入れながら、ペット保険のことを思った。今回は軽症だったが、高齢になるにつれて治療費は上がる。
ペットの種類や年齢によってかかりやすい病気は大きく異なり、高齢期になると循環器や泌尿器系の疾患が増加する傾向がある。
むぎはまだ四歳だが、
ペットが一度病気になってしまうと、ペット保険に加入できない、あるいは加入できても条件付きになってしまう可能性があるため、ペットが健康なうちに加入を検討するとよい。
そのことをわかっていながら、「まだ若いから」と先延ばしにしてきた自分を少し恥じた。

ペット保険にはさまざまな種類があり、
ペット医療には人間の健康保険のような公的医療保険制度がなく、飼い主の全額自己負担となるため、病気やケガで治療が長引いたり手術が必要になったりすると高額な診療費がかかるケースも少なくない。
知人から「保険に入っていたから手術に踏み切れた」という話を聞いたことがある。お金の不安がなければ、治療の選択肢は広がる。それは、ペットにとっても飼い主にとっても、大切なことだ。

家に帰り、むぎに薬を混ぜたごはんを差し出すと、最初はくんくんと匂いを嗅いで顔を背けた。薬の苦みを察知したらしい。仕方なくちゅーるに包んで差し出すと、今度はあっという間に完食した。なんだ、バレてなかったのか。思わず笑ってしまった。

ペットとの生活は、こういう小さな一喜一憂の積み重ねだと思う。元気な日の散歩、雨の日のうとうとした午後、そして病気になった夜の心細さ。どれも、一緒にいるからこそ感じられるものだ。だからこそ、いざというときに備えておくことが、日常の安心につながる。ペット病院との関係を日頃から作っておくこと、ペット保険を健康なうちに検討しておくこと。それは愛情の形のひとつだと、むぎのやわらかい背中を撫でながら、静かに思った。

六月の夜、部屋にはアロマディフューザーから微かにカモミールの香りが漂い、むぎはようやくいつもの場所で目を閉じていた。その寝息を聞きながら、わたしも少しだけ深呼吸した。

組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:UETSUJI TOSHIYUKI

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