ペットが病気になった夜、わたしたちにできること――ペットとの生活で知っておきたい備えの話

Uncategorized

Uploaded Image

五月の夜は、妙に静かだ。窓の外からは遠くで雨が路面を叩く音だけが届いていて、リビングの照明がいつもよりひとまわり明るく感じられた。そのとき、ソファの端でまるくなっていた愛犬のムギが、ふいに立ち上がって、また横になった。その繰り返し。何かがおかしい、と気づいたのは、ムギが水を飲もうとしてお皿の前でうずくまったときだった。

ペットを大切な家族の一員として生活をともにしているご家庭が増えている
今、こういう夜は、決して他人事ではない。ペットとの生活は喜びに満ちているけれど、病気のサインを見逃さないための「目」を養うことも、飼い主としての大事な役割だと思う。

わたしが子どものころ、実家で飼っていた柴犬が体調を崩したとき、父はとにかく「様子を見よう」と言い続けた。あの判断が正しかったのかどうか、今でも少し考えることがある。ペットは言葉で不調を伝えられない。だからこそ、食欲の変化、呼吸のリズム、排泄の状態、目の輝き——そういった細かなサインを毎日の暮らしの中で積み重ねておくことが、いざというときの判断を早める。

ムギの場合、腹部が張っているように見えた。触れると、かすかに温度が高い気がした。フローリングの冷たさと、ムギの腹の熱さのコントラストが手のひらに残った。こういうとき、人間なら自分で「痛い」と言えるのに、と思いながら、急いでペット病院に電話をかけた。

ペットの体調不良の際に保険に加入していることで気軽に動物病院に行くことができるようになるため、病気の早期発見、早期治療につながる
という話は、頭ではわかっていた。でも実際に深夜に症状が出たとき、「これは病院に連れて行くレベルなのか」という判断に迷う。夜間対応のペット病院の番号を、スマートフォンのメモアプリに保存しておいたのは、半年前のことだった。あのとき準備しておいてよかったと、心から思った。

診察室で獣医師が「胃腸炎ですね、点滴しましょう」と言ったとき、ほっとするよりも先に、「費用はいくらくらいになりますか」という言葉が喉まで出かかった。実際に口に出してしまったのだけれど、先生は慣れた様子で「今日は検査と点滴で二万円ほどです」と教えてくれた。ちなみに、帰り際に「ムギちゃん、ご飯を食べすぎましたね」と言われたとき、わたしは思わず苦笑いした——おやつをこっそり多めにあげていたのは、ほかならぬ自分だったから。

ペット保険があることで、経済的な理由で治療をあきらめることなく、ペットにとってベストな選択肢を検討できるようになる。また、少しの体調の変化でも早めに受診しやすくなるため、治療に対する心理的なハードルも下がる
。ペット保険の存在は、そういう意味でとても大きい。ムギにはすでに加入していたので、今回の治療費の一部は補償の対象になった。加入していなければ、もう少し受診を迷っていたかもしれない、とも思う。

日本におけるペット保険の加入率は21.4%で、ペット(犬猫)の飼育数は15歳未満の子どもの数を上回っている一方、子どもの保険加入率と比べると、ペットのためのもしもの備えが依然として少ない
のが現状だ。ペットとの生活がこれほど当たり前になっているのに、備えの意識はまだ追いついていないのかもしれない。

病院から帰ると、深夜一時を過ぎていた。ムギはキャリーバッグの中でうとうとしながら、ときどきわたしの手首に鼻先をあてた。その小さな湿った感触が、なんともいえず愛しかった。点滴を終えたムギの毛並みは、病院の消毒液のにおいをかすかにまとっていた。それでも、呼吸は落ち着いていた。

ペットとの生活は、こういう夜も含めて成り立っている。元気に走り回る姿だけではなく、病院の待合室で膝の上に乗せて待つ時間も、ペット保険の書類を引っ張り出して確認する慌ただしさも、全部ひっくるめて、一緒に生きているということだと思う。

架空のペット用品ブランド「ノルテリーフ」が出しているケア日誌のノートを使い始めたのも、あの夜がきっかけだった。毎朝、ムギの食欲・排泄・体温の変化を三行ほどメモするようになった。たった三行だけれど、ペット病院で「いつから症状が出ましたか」と聞かれたとき、このノートが驚くほど役に立つ。

病気になってから慌てるのではなく、毎日の小さな観察と記録の積み重ねが、いざというときの判断を支える。そしてペット保険への加入は、その判断をためらわせないための安心材料になる。ペットとの生活を長く、豊かに続けるために——備えることは、愛情の一形態だと、わたしはそう思っている。

組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:UETSUJI TOSHIYUKI

コメント

タイトルとURLをコピーしました